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【ロシア楽派の真実】「ヴァイオリンは貴族の楽器です」

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ロシア楽派のイメージは速弾き・大音量だが・・・

ロシアのヴァイオリンスクール、中でも、ソ連邦時代のモスクワ音楽院の教育システムとそこから輩出されたヴァイオリニストについては、時にこんなイメージで語られることがある。

-その指導原理は、絶対服従。この弾き方しかない、他の弾き方はあり得ないと、徹底的に奏法を叩き込む。そして彼らは、大きな音量とダイナミズム、そしてかなりの速度で、時に攻撃的とさえ思われるような演奏スタイルを得意とする・・・

しかし、本当にそうなのだろうか?

ここに、ロシア楽派のあるヴァイオリニストが、生前に残したインタヴュー記事がある。1998年に弦楽雑誌「ストラド」に掲載されたものだ。

イーゴリ・ベズロドニー(1930-1997)。

ジョージア(=グルジア)のトビリシ出身。1950年に「第1回ライプツィヒ国際バッハコンクール」で優勝。

ソ連邦時代のモスクワ音楽院で偉大な指導者と誉れ高かったアブラム・ヤンポルスキー(1890-1956)に師事し、1972年に自らも同音楽院の教授に就任した。1991年からは、フィンランドのシベリウス音楽院でも教鞭を執った。

ヴァイオリンは “歌う” 楽器

興味深いのは、社会主義のソ連で、ガチガチのソビエトシステムで育成されたと思われる彼が、意外な比喩を使って、近年のヴァイオリンの音の変質に対して、こんなふうに警鐘を鳴らすくだりだ。

私が生徒に理解してもらいたいと思うのは、ヴァイオリンは 貴族の楽器 であるということです。

彼らには時々こう言います。「もしあなたが本道から外れて、聴き手に衝撃を与えるような強烈な印象の音を出したいと思うのなら、違う楽器をやりなさい。ヴァイオリンには触れないほうが良い」と。

私はヴァイオリンは基本的には歌う楽器だと思っています。

ところが、近年のヴァイオリンに起こりつつあることといったらどうでしょう。

それは、のこぎりのような、打楽器のような音を立てています。そのような音はヴァイオリン本来の音ではないと思うのです。 (※太字強調は訳者)

ロシアスクールが誤解される2つの要因

ベズロドニーによれば、ロシアスクールは誤解されているという。

その要因は、2つあって、ひとつはソ連から西側に渡ったロシアスクールを代表するという指導者らが、その指導法を個々に皮相的に利用し、教条的に押し付けたこと。そして2つ目が、コンクールだと言う。

コンクールでは、面白い演奏をする将来性豊かな奏者が、あらゆる審査尺度に合致しているものの誰の心も動かさず魅了することもないような奏者よりも低い点数しか与えられないことがあります。

好きになれないが、そんな風に弾けばコンクールで1位が取れる演奏。

多くのコンクールを経て、徐々に1位を獲得できるスタイル-urgent(切迫的)、upbeat(アップビート)、penetrating(音の通りの良い)-が発展していき、それが、ロシアスクールの主要な特徴だと誤解されるようになったという。

真のロシアスクールとは?

では、真のロシアスクールとはどのようなものなのか。

ベズロドニーは次の3つの特徴を挙げる。

  1. 音を創り出す自然な手の動きを実現すること。そのために、筋肉のどの部分を使い、どう動かすかへの意識を高めること。
  2. 音の純度、豊穣さ、色彩など、音への要求度が高いこと。
  3. 演奏の自由度への許容。どんな解釈も、それが味気ないものでない限りは、すべてが認められる。

ハイフェッツとクライスラーでは、メンコンの3楽章の速度がまったく異なり、ハイフェッツはクライスラーの倍の速さで弾いた。

しかし彼らはどちらも偉大なヴィルトゥオーゾである。問題は速度ではないのに、今日の若手奏者は速度に魅了され過ぎている、と彼は言う。

音楽は神からの授かり物

今日追求されている演奏のあり方は、聴き手がそういうものを求めた結果なのではないかと言う人もいる。

そんな声に対して、この生粋のロシア楽派のヴァイオリニストは、再び比喩を使ってこう反論する。

もし、音楽が神からの授かり物だとしたら、教会の司祭が説教をする前に、「皆さんは今日何を聴きたいですか?」「私にどんな話をして欲しいですか?」などと礼拝者に尋ねるでしょうか?

そんな不自然なことはないと思うのです。

“The Russian violin school is largely misunderstood”(“The Strad”)

イーゴリ・ベズロドニーが、まさに神の意思をロシア楽派の伝統を媒介にして至高の音へと高め究め尽くしたとも言える演奏が YouTube で公開されている。

バッハ:シャコンヌ。

音の解像度のこれ以上ない高さ、楽器を鳴らし切る完成された技術の粋に、思わず息を呑む。

photo credit: pellaea via photopin cc

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 弦だとか弓の毛だとか、そんなことを意識しているようじゃだめなんだ。ヴァイオリンは弾くものじゃなく、歌うものだ。

レオポルド・アウアー(List

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