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スズキ・メソード 鈴木鎮一氏の“経歴問題”-英メディアが報道

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「音楽史上最大の欺瞞」

世界46カ国で約40万人の生徒がヴァイオリン等を学ぶ早期英才教育団体「スズキ・メソード」の創始者である鈴木鎮一氏(1898-1998)が、ドイツに留学していた1920年代の経歴について、ある疑惑が浮上したとのニュースが欧米メディアを駆け巡っている。

2014年10月25日付の英紙「デイリー・テレグラフ」は、「音楽史上最大の欺瞞」等とセンセーショナルな見出しを付けて報じている。

“Violin teacher Suzuki is the biggest fraud in music history, says expert”(“Telegraph”)

事の発端は、アメリカのヴァイオリニストで指導者でもあるマーク・オコーナー氏が、同年10月16日に自らの ブログ に掲載した鈴木氏の経歴に関する告発レポートだった。

photo by Thomas Wolf

ドイツの音楽学校は「不合格」

オコーナー氏は、1921年にドイツに渡った鈴木氏が、当時著名なヴァイオリニストでベルリン高等音楽学校の教授でもあったカール・クリングラー(Karl Klingler)氏に師事することを望んでベルリン高等音楽学校を受験したものの、不合格となっている事実を当時の学校側の入試資料を元に明らかにし、鈴木氏がクリングラー氏に師事したことはなかったと主張している。

さらに、鈴木鎮一氏はその経歴の中で、物理学者でヴァイオリンを愛好したアルバート・アインシュタイン博士が自らの後見人となり、博士の知己らとの交流を通じて人間的な感化を受けたとしているが、実際にはそういった交流関係を裏づける証拠はなく、鈴木氏が自らの父親が作ったヴァイオリンをアインシュタイン博士に届けた時の記録しか残っていないとしている。

オコーナー氏はブログで、「鈴木鎮一氏はしかるべきヴァイオリン教師から正式な指導を受けたことはなく、18歳でヴァイオリンを始めたとき以来、基本的には独学だった。彼がオーケストラでポジションを得たこともない」と書いている。
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“ネガティブ・キャンペーン” の側面も

告発者のオコーナー氏は、「オコーナー・ヴァイオリン・メソッド」というスズキ・メソードに代替し得る中級者向けのヴァイオリン指導法の開発者である。

従って、今回の告発の背景には、巨大ライバル組織へのネガティブキャンペーン的な側面もありそうだが、鈴木鎮一氏のベルリン時代の学歴について言えば、公表された年譜などには、ベルリン高等音楽学校に「入学した」とは書かれておらず、「クリングラーを訪ね、入門を許された」とあるのみだ。(参照:鈴木鎮一著『奏法の哲学』)

たとえ入学試験で落とされ、その試験官の一人がクリングラー氏だったとしても、この不合格の事実のみをもって、鈴木氏がクリングラー氏に師事していなかったと断定することはできないだろう。音楽大学に不合格になっても、その大学の教授に私的に師事することは現在でもよくあることだ。

むしろ不合格にされたというその入試資料を見ると、鈴木氏はクリングラー氏のクラスに「空きがあれば」入学を許可されるレベルにあったことが記載されている。

18歳というレイトスターターでほぼ独学ながら、6年後にベルリン高等音楽院に「補欠合格」したというのは、かなりの実力者であったと見ることもできる。

さらに、アインシュタイン博士との交流についても、父親が製作したヴァイオリンを届けた記録しか残っていないという事実をもって、博士と一切交流がなかったと結論付けるのは、これも相当に無理があるように思われる。

photo by Sebastian Rittau

真骨頂は「独学自己流」のアマチュアリズム

全世界で40万人が学び、幾多の著名ヴァイオリニストもこの指導の下で学んだ経験を持つスズキ・メソードが、前例のないオリジナルな早期英才教育の指導法であり、とりわけヴァイオリンの導入期において画期的な成果を上げてきた教育システムであることは誰も否定できないだろう。(無論、演奏家として大成するためには、スズキ・メソードをできるだけ早く “卒業” し、正統的なヴァイオリン楽派の系譜にある指導者に師事する必要がある)

その指導法について鈴木氏は「第一の目的は音楽家を育てることではなく、立派な人間を育てることだ」と述べている。

たとえ鈴木氏が正式なヴァイオリン教育を受けておらず、優秀なヴァイオリニストでなかったとしても、その事実とこの指導法自体の画期性との間には何の関係もないだろう。

18歳からのレイトスターターである事実や、スズキ・メソードの旧版の教本CDに残された鈴木氏の演奏を聴けば、鈴木氏が一流の演奏家でないことは今までも多くの人が気づいていたことでもあり、スズキ・メソード自体、それを認めている。

「鈴木鎮一はバイオリニストである。しかし演奏家としては決して一流ではなかったが、バイオリンを通して人間を育てる教育者として知られている。」(「NPO法人 国際留学生協会」公式サイト

その鈴木氏の「独学自己流」のアマチュアリズムこそがこの指導法の真骨頂、まさにスズキ・メソードの革命性の源であったはずだ。

伝統的なヴァイオリン指導法に一切影響を受けていないことを示す今回のオコーナー氏の調査結果は、むしろこの指導法の優れたオリジナル性を逆に照らし出していると言えなくもない。

ただし、公表された年譜等を通して、鈴木氏の経歴が一流の指導者への師事や著名人との交流の事実によって権威付けられ、それがこの指導法の普及に一役買ってきた面はあり、経歴の真偽については根拠を示して明らかにされる必要がある。

今回のオコーナー氏の告発に対しては、アメリカのスズキ・メソード関係者が、暗にこれが「オコーナー・メソッド」の開発者によるネガティブキャンペーンではないかと疑うコメントを発しているものの、今のところ鈴木氏の経歴に関するスズキ・メソード側からの正式なコメントは出ていない。

※追記:その後、2014年11月2日にスズキ・メソード会長が本件に関する公式見解を発表した。

スズキ・メソード会長が公式に反論 鈴木鎮一氏の“経歴問題”

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 ヴュータンは壮大なスタイルで書きました。その音楽はどこをとっても豊かでよく響くものです。自分のヴァイオリンをよく鳴らそうと思うなら必ずヴュータンを弾いてほしいですね。

ウジェーヌ・イザイ(List

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