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巨匠が不快感 「審査員の生徒が出るコンクールはアンフェア」

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ファイナリスト6名中、審査員の生徒が4名

国際コンクールの審査を巡って、欧米のネット上で議論が沸騰する中、巨匠ヴァイオリニストで指導者としても名高いアーロン・ロザンド(Aaron Rosand)氏が、審査のあり方について不快感を表明する書簡を発表した。

議論の発端は、「第9回インディアナポリス国際ヴァイオリンコンクール」(9/5~21 アメリカ・インディアナポリス 以下インディ国際)のセミファイナルの結果だった。

他の国際コンクールの入賞経験者らを含む有力な出場者が軒並み落選する中で、選ばれたファイナリストは6名。そのうち韓国人が5名を占め、しかも審査員の生徒が4名も含まれていた。

その事実に対し、クラシック音楽系情報サイト “Slipped Disk” が、批判的な記事を掲載した。

「インディ国際の偏向に関するいくつかの疑問」(”Some questions of bias at the Indy Violin contest”)

出場者や入賞者に韓国・日本・中国等のアジア勢が多いこと、さらに審査員の生徒が混じっていることは、インディ国際に限らず、今やほとんどのコンクールで見受けられる現象ではあるが、世界で最も権威あるヴァイオリンコンクールの審査で、少々「あからさま」とも思える結果が出たことが、改めてコンクールの審査を巡る議論を沸騰させることになったようだ。

そんな中、カーティス音楽院で幾多の若手ヴァイオリニストを育て、今回のインディ国際にも自らの生徒を送り出しているアーロン・ロザンド氏が、同コンクールのセミファイナルの結果に関するコメントをしたためた書簡を “Slipped Disk” に送付、ロザンド氏の許可を得て、同サイトが文面を公開した。

点数操作が容易に可能

ロザンド氏によれば、「コンクールは審査員の生徒がその中に含まれる場合は、フェアでなくなる可能性がある」という。

インディ国際には、審査員は自らに師事している出場者の採点には加われないルール があるが、ロザンド氏は、「彼らは自分の生徒ではない他の有力な出場者に対してより低い点数しか与えないことが容易にできる」のであり、「こうしたやり方をやめなければ、公正で偏りのない審査結果を実現することは不可能だ」としている。 ※「ヴァイオリニア」にも 同様の見解 を頂いている。

「アーロン:ロザンド:審査員が自分の生徒と顔を合わせるコンクールはフェアではない」( “Aaron Rosand: ‘A competition is not fair when teachers face their own students’”)

今回のインディ国際の6名のファイナリストと、彼らの現在の(あるいは直近までの)在籍校・師事する指導者は以下の通りである。※太字は今回のインディ国際の審査員

  • Dami Kim(韓国)
    ニューイングランド音楽院:ミリアム・フリード(Miriam Fried)氏
  • Ji Young Lim(韓国)
    韓国国立芸術大学:キム・ナムユン(Kim Nam Yun)氏 ※ハイメ・ラレード(Jaime Laredo)氏 のマスタークラス受講
  • Yoo Jin Jang(韓国)
    ニューイングランド音楽院:ミリアム・フリード(Miriam Fried)氏
  • Tessa Lark(アメリカ)
    2006~2012年までニューイングランド音楽院:ミリアム・フリード(Miriam Fried)氏
  • Ji Yoon Lee(韓国)
    ハンスアイスラー音楽大学ベルリン:コリヤ・ブラッハー(Kolja Blacher)氏
  • Jinjoo Cho(韓国)
    クリーヴランド音楽院:ハイメ・ラレード(Jaime Laredo)氏

審査委員長のハイメ・ラレード氏の生徒が1名(マスタークラス指導1名)、審査員のミリアム・フリード氏の生徒が3名と、確かに6名中4名が審査員に現在師事する(あるいは直近まで師事した)生徒であった。

「門下対決」と「学校対決」

もちろん、ロザンド氏の今回の批判は、自らの生徒がファイナルに進めなかったという、「私情」に発する部分が強い。

カーティス音楽院の彼の生徒であり、今回のインディ国際の優勝候補と目されていた、リチャード・リンさん(Richard Lin 「2013年仙台国際」優勝)が予選で敗退し、同じく生徒で、2月の「2014年メニューイン国際」シニアで優勝を飾ったステファン・ワーツさん(Stephen Waarts )もファイナル進出を逃しているのだ。

さらには、同じカーティス音楽院の他の指導者に師事するセミファイナリスト4名(Yu-Chien Tseng さん、Stephen Kim さん、Ji-Won Song さん、Christine Lim さん)も、ファイナルへ進むことができなかった。

「門下対決」、さらには「学校対決」の様相は、メニューイン国際コンでも、表面的には見て取れ、この時の1位・3位・4位は、「カーティス音楽院」勢。審査委員長は同音楽院教授のパメラ・フランク(Pamela Frank)氏だった。

一方、今回のインディ国際は、「ニューイングランド音楽院」と「クリーヴランド音楽院」勢が圧倒的に優勢ということになるのだが、そんな図式はともかくとして、今回のロザンド氏の批判の趣旨を、単に私情に発したものだと一概に片付けてはならないだろう。

「感情」を排するフェアなシステムの構築

批判された審査員らも、他のコンクールで同様の露骨な「生徒びいき」を経験したことがあるのかもしれない。

どんな指導者も生徒のことがかわいい。だから引き上げてやりたいと思う。一方の生徒も、できれば指導者に頼りたいと思う。

そんな師弟関係が、そのままコンクールの場に持ち込まれれば、フェアな審査など成立しようがないのは明らかだ。

とはいえ、優秀な指導者の下には優秀な生徒が集う。そしてコンクールの水準が上がれば上がるほど、彼らの多くがその審査員となり、またその出場者となるのは避けようがない。

「審査員の生徒は出場できない」ルールとなると、コンクールのレベルは下がる可能性がある。

それでも尚、コンクールは、人間としてはどうにもならない感情を審査に介入させないシステムを、敢然と構築していく必要がある。

審査員のメンバー人選では弟子を持たない演奏家らの比率をもっと上げる、点数の異常値を排除する仕組みを採点システムに取り入れる、審査基準を細かく設定する、審査委員長やその上に立つ実質的な統括者を頻繁に入れ替えるなど、公正性を実現していくためには、様々な取り組みが考えられるだろう。

だが、「体制」の外からの批判や提言だけでは、「体制」は変えられない。

内部にいる人が、意識的に変えていく努力を重ねる必要がある。

「今のままではいけない」という共通の思いを持つことが、まず第一歩となるはずだ。

photo by Biruitorul

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  • コメント ( 1 )
  • トラックバック ( 0 )
  1. いろいろと試行錯誤をしてきましたが、結局公平な審査方法などありませんでした。

    頼れるものは寛容の心と良識のみです。

 ヴュータンは壮大なスタイルで書きました。その音楽はどこをとっても豊かでよく響くものです。自分のヴァイオリンをよく鳴らそうと思うなら必ずヴュータンを弾いてほしいですね。

ウジェーヌ・イザイ(List

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